FLOOR J-03


千浩観察室(3-4ヶ月)

千浩、笑う。
オルゴールメリーを買う。ぜんまい駆動で、音楽を鳴らしながら千浩の上で動物が
ぐるぐる回る。音楽に合わせて唄ってあげるととてもごきげんな表情に。快楽を
表現する手段を手に入れた。今までは不満があれば泣いて、母乳を飲んだりおむつを
取り換えてもらったりすれば安楽な顔になって辺りを見回したりしていたが、
それ以上に楽しい、快適である、という意思表示が出来るようになってきた。誰が
教えたのだろう。どうやって学んだのだろう。会社の先輩の娘さん。まだ1歳半くらい。
でも腰をくねっとさせたり片手を頭に当てて振り向いたりと、なんだかポーズが色っぽい。
誰が教えたのだろう。母親が教えたわけでもあるまいし。不思議なものである。

なんだかかなり太る。
生まれたときは宇宙人みたいだった。が3045gで生まれた千浩は1ヶ月で4126g、2ヶ月で
6000g、3ヶ月で7000くらいと急激に巨大化している。というか、肥大化している。まるで
超新星爆発を起こす前の巨大化した恒星のようだ、見たことはないが。四肢は
ぷよぷよ、というかむちむちというか。ほとんど母乳だけでここまで大きくなることに
改めて感動。触るととても気持ちいい。こんなにきめ細やかできれいな肌にはもう戻れない
のだろう。ま、男の自分が言うことでもないが。肌の老化は産まれたときから始まる案に
一票。子牛の革が最高といわれるのも理解できる。肌の匂いも少しずつ変わっている。
2ヶ月くらいまでは乳臭いというか、なんとも甘い匂いが漂っていてこれが心地よい。
3-4ヶ月になると乳臭さは消えて、もっと普通の匂い、でもなお気持ち良い匂いに変わる。

目に意識が宿っている(ように見える)
生まれたときの千浩の目はぼんやりと宙を泳いでいた。しかしオルゴールや動くカーテン、
そして我々を見る今の千浩の目には明らかに意識を感じる。興味をもって見ている。
目は口ほどに物を言うと昔から言われる。千浩の心がまだシンプルなせいか、それが
如実に分かるのだろうか。おもしろいものである。



上が生まれたばかり、下は最近。

移動することを覚える。
朝起きると、いつのまにか頭が逆の方向を向いている。明くる日は妻の方にくっついて
寝ている。まだ寝返りは打てないのに、どうやって動いたんだろう?

親指を吸う。
気がつくと親指を吸っていることに気がつく。口寂しいときにそうしているのか。
先から母乳は出ないことは分かっているのに、そうして吸っている。代替品を使う
事を覚えたということ?

ついに話し始める。
機嫌のいいときに、千浩の目を見て「千浩?」と話しかけると、「ンニャ〜」「ハゥ〜」
と声を出し始めるようになった。「気持ちいいか?」「ニャゥ〜」喃語というものらしい。
コミュニケーションをするのが楽しくて仕方ない、といった喜びを顔全体で表現しながら
声を出し続ける。う〜ん、かわいい。しかし、声を使って行うコミュニケーションの方法を
千浩は手に入れはじめた。まだ何かを伝えている訳ではないが、それで意志を疎通しあえる
ことをそのうち学んでいくのだろう。

オルゴールに触る。
オルゴールの人形に手を伸ばし、触る。触ると人形が動く。「フン〜ッ!」興奮している。
千浩は大変重要なことに気がついたはずだ。自分の手を使って外界に影響を及ぼすことが
出来るのだ。今までは自分の意志と関係ないところで世界が動いていたかも知れない。
でも自分の意志で自分の手を使って、自分以外のものを動かすことも出来る。千浩、
良いところに気がついた。これから言葉や手をうまく使ってうまく世界や社会に関わって
いけよ、そう思った。言ったわけではない。今は言っても分からんし。


カンフーをしているわけではない。そう見えなくもないが。

5-7ヶ月目まで


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Updated at Jan. 30,2000